I don't need love.

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「その言いようがひどいって、どういうこと? 阿川さんはなんて言っているの? ね、安田さん教えて」  麗子は鬼気迫る表情で、安田に詰め寄った。  安田は目を伏せるそのまま黙ってしまい、それ以上は語らない。  エレベーターが到着した。麗子の腕を掴む安田に、自分は大丈夫だと頷くと、麗子は更衣室へと向かった。 「安田さん、私は大丈夫よ」  後をついてくる安田を振り返ると麗子は微笑んだ。 「でも……」 「ありがとう」  心配そうな安田にもう一度笑顔を見せる。  安田とはなんとなくランチに行ったり、特別仲が良いというわけではないけれど、何かあれば行動を共にするような仲である。もちろん、そこには他の同期が含まれたり、健吾も一緒だったりすることも多々ある。  余計なことを詮索したりしない、安田の取る程よい距離感がとても心地良いと感じていた。  その安田をここまで心配させている。  本来、広報部は私服勤務だから更衣室とは無縁であるのに、麗子の後ろをついてくるほどに心配している。  麗子の健吾への気持も、速水とのことも安田は知らないはずだ。純粋に、仲の良い男友達がボロクソに言われているのを聞いてしまったら、麗子が傷付くのではと心配しているのだ。  阿川はどれだけひどい言葉で、健吾のことを何も知らない人たちに向かって、健吾のいない場所で、健吾のことを貶めているのだろう。
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