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だんだんとアドレナリンが分泌されているような気がする。手のひらにじんわりと汗を感じたところで、更衣室の手前にある自販機の置かれた休憩スペースから、きゃあきゃあと話す耳障りな声が聞こえてきた。
「おはようございます」
通り過ぎた方がいいと言わんばかりの顔で麗子の腕を引っ張る安田を無視して、麗子は休憩スペースにいる阿川に声を掛けた。
「おはよう、笹川さん。あ、あなたはもう健吾から聞いたかしら?」
麗子は、自分のこめかみがピクッと痙攣するのを初めて感じた。
「私たちね、別れたのよ。なぜだと思う?」
麗子に話すことが嬉しくて嬉しくて仕方がないと舌舐めずりしているように見える阿川の表情に、麗子は吐き気がした。
「健吾ったら、淡泊なのよ、セックス。私はもっと熱く抱いて欲しいのにすぐに終わっちゃうの。あんなに大きな身体なのに早漏で持続力もないなんて恥ずかしいわよね」
クスクスと笑う阿川を無表情で見つめる。
後日、安田に『いつ飛びかかるかと気が気じゃなかった』と言われ、二人で大笑いをした。
実際のところ、内側では憎しみと妬みの炎が轟々と燃え上がっていた。手を出しては負けだ。もっと、冷静に正当なやり方で論破出来ないかと、驚くほどに冷静沈着な麗子が頭の片隅にいたことに助けられていた。
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