第一章 師と弟子と厄介な夢

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つい三月前開催の朝市までは「空で店を出すべからず」などというお触れがなく、空でもちらほら商売が行われていた。もっとも、空を飛べないヒトは多く、客は少なく、商い施設を浮かせるだけでも人手が必要なため、元から不人気であった。 露店は広場さえ溢れていた。大通りに限らず小路にさえ店が見える。 昨今、この街では「粋」が異様なほど重んじられ、「枯れ木も山の賑わい」とばかりに、このあぶれ者らを咎める者は少ない。 さて、鈴命寺前の広場より南へ少しばかり歩いたところに、草葺きの支度茶屋が並んでいる。どれも旅籠を兼ねたものであった。 向かいには、黄ばんだ長い塀が、支度茶屋十五件分続いていた。元庄屋の住む大屋敷である。 そしてその塀の前にも、店を出す者が居た。 筵を敷き、切り出し木材の簡易的陳列台の上に、角の生えた不思議な魚の干物が適当に並べ置かれている。当の売り子の親父は、横へ置いた籠の上に肱を置き筵へ脚を投げ出し塀へもたれ、退屈そうに煙草を吹かしていた。 くたびれた水干を着る妖魔の少年スイは、正面にしゃがみ込み、その魚をじっと眺めている。 彼の青髪の上には、クラゲのような質感と蛸のような触手をもつ妖精・アマノヌラが乗っかっており、肩には、腕だけが異様に長い黒い猿の姿の妖精・エンキが座っていた。アマノヌラは寝ぼけ眼でうつらうつらしており、エンキはじっと周囲の様子をうかがっていた。     
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