秋の約束

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秋の約束

「それを、その花籠を……」  御簾の奥から声がする。それはまぎれもないかつての恋人の声だった。ヒノミは、しかし狂った瞳のままに、虚ろな視線を恋人へ向けた。 「ああ、そうだ、間違い無い、これは、私がソニに託した花籠……、このような姿に落ちてまで、私の事を……」  王の言葉は哀れみに満ちていた。 「ソニ、このように私を思うあまりに狂女に身を堕としてまで追って来た哀れな女を、まさか追いやったりはすまいな」  傍目には、かつての恋人を思うあまりに、気が狂い、彷徨い歩いてきた女にしか見えないヒノミを、王であるオホドが哀れみ、救おうとしているようにしか見えなかった。
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