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灯台に住んでしまうのと同じだよ
「要するに、帰る場所さえ合っていれば良いんだよ」
電波に乗ったあの人の声は、それはとても弾んでいて。
「だからね、野球のホームベースのように、最後はちゃんとそこへ着けば良い。滑り込んでも、つま先からでも右手からでも、頭からだって構わない。一塁でも三塁でもなく、ホームベースへ」
「…いま、どちらで?」
あの人は、時折こうして“降ってきたもの”を、突如として私に投げてくる。それは次に出す問題集の序文であったり、コーヒーと化学式の関係性であったりするが、それらを理解できたことなど、今までに一度もなかった。だから私は「はあ」とか「ええ」とか、適当な相槌を打ちながら、唯々聞き役に徹してきた。けれども、それは決して苦痛ではなかったし、むしろ楽しんでいたくらいだった。あの人は、同意も意見も、賛辞も強要しない。まるで初めて流れ星を見た子どものように、目を輝かせながら心底幸せそうに、ひたすらに喋る、喋る、喋るのだ。そして話し終えると、充電が切れたかのように静かになって、照れ臭そうに「聞いてくれてありがとう」と呟き、シャツの裾で眼鏡を拭いてみたりする。
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