灯台に住んでしまうのと同じだよ

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 そうなのだ。幾つも年上の癖に、幾つになっても年下のようなあの人が、私は愛しくて堪らない。  冷めた口ぶりで受け流している癖に、本当は期待で膨れている。次はどんなクラッカーが鳴るのか、何色のくす玉が割れるのか。あの人の言葉を、耳を澄ませて待っているのだ。 「…僕はね、今、講義を終えて帰るところなんだが、ほら、向こうの方に駅があるんだよ。君も覚えているだろう、大学を正門から出て、目の前に河川敷があって、そこをずっと南へ行くと、西から垂直に橋が架かっていて、頭上を電車が通っていく。今ね、僕はその河川敷を歩いているところなんだがね」  あの人の声が、私の頭に仕舞ったアルバムから古い写真を取り出した。雨漏りの直らないキャンパス、台風の後の澱んだ川、河川敷のゴミ拾い、夕焼けを轢く貨物列車。そして、あの人が配った手書きのテクスト…。 「河川敷の、こう、遊歩道というか、一段高くなっているところから眺めると、手前に小路が広がっていて、奥の方には武骨なビルがボコボコと、塊になって建っているのが見えるんだ。     
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