東京の協力者

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「あっ、いらっしゃーい修! 掃除は完璧よ! ささ、上がった上がったぁ!」  玄関を観察していると、リビングから由香が顔だけ出してきた。元旦にお邪魔した時もこんな風に出迎えられた覚えがある。長い髪を後ろでまとめて、ビニール手袋を持っているから、今まで掃除をしていたのだろう。 「圭一、今から買い物行くから! 夕飯何が良い? 私が着替えてる間に考えといて!」  そう言うと由香は突風のように寝室へ行ってしまった。バタンバタンと箪笥を開く音が聞こえる。もう少し落ち着いてほしい。 「すいません。落ち着きがない妻で」 「あー……元気があって良いんじゃないか?」  圭一くんも落ち着きがないと思っていたらしい。 「で、夕飯決まったぁ!?」 「うわっ、何でも良いよ。由香の好きな物買ってきてよ」 「よし、任せて! それじゃあいってきます!」  由香はビュンッと僕たちの脇を通り過ぎて玄関のドアを開けた。僕達はまだ玄関にいるというのに、彼女は素早く着替えを済ませて、夕飯の買い出しに行ってしまった。嵐のような人だ。 「…………」 「あー……修さん、早いですけど。飲みます?」 「あ、ああ……うん、そうだね」  呆れ返る圭一くんを見て思う。彼は何で由香と結婚したんだろう。どこに惹かれたのか。お酒を飲みながら聞いてみようか。  しかし神崎家に着いてまだ十分も経ってないのに、どっと疲れてしまった。ソファに座ってお酒が出てくるのを待つ。早い時間から飲むのは久しぶりだ。好美が妊娠する前は、休日の朝から二人で飲んでいた。朝っぱらから飲むのは、いけないことをしているようでワクワクする。  いつか、また二人で飲みたい。そんな思いを胸に秘めて、冷えたビールを飲み始めた。 「ところで圭一くんは由香のどこが好きなんだい?」 「えっ、それは……パワフルなとこ、かな? とにかく元気な人が好きなんです」  顔を赤くして照れる圭一くん。ああ、しまった。これは惚気話に発展するぞ。言ってから気付く。  案の定、お酒が入った圭一くんは由香との馴れ初めをこんこんと語り始めた。由香が買い物から帰ってくるまでそれは続いた。  ああ、ビールが甘い。こんなに甘かっただろうか。
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