祠村

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 小鳥の父は一瞬、表情を無に戻し、数秒間言葉を詰まらせると 「あ、ああ・・・・・・そうか。何を隠そう、君にこの村に来るよう手紙を書いたのはあの子だもんな」  小鳥の母親も 「小鳥自身も、唯月くんに早く会えるのを楽しみにしていたわ。でも、あの子は今ここにはいないの。ついさっき、出かけたばかりで・・・・・・」 「じゃあ、僕もそこに行きます。どこら辺か、教えて頂けませんか?」  唯月は、小鳥の居場所を聞き出そうと問いかけるが 「いや、そのうち戻って来るよ。ここまで来るのに疲れただろう?お茶とお菓子を出すから、部屋で休んでいた方がいい」 「彼の言う通りよ。唯月くんみたいな都会の人にとって、山は危ないわ。どんな危険が待ち受けているか、分からないんだから」  深刻な顔で家に留まるよう提案されても、唯月は考えを変えようとはせず 「迷いそうになったら、諦めて戻って来ます。心配しなくても大丈夫、僕はもう幼い子供じゃないし、絶対に迷惑はかけないと約束しますから。どうしても自分から会いに行って、小鳥お姉ちゃんを驚かせたいんです」  小鳥の両親は、しばらく顔を合わせて困り果てたが結局、彼の意気込みに負け 「・・・・・・分かった。なら、絶対に奥には立ち入らない事を約束してくれ。それと、これを持って行った方がいい。熊や蛇にも効果がある」  と靴入れの棚に置いてあった害獣スプレーを手渡す。 「何から何までありがとうございます。それで、小鳥お姉ちゃんはどこに?」 「あの子なら西の山に行ったはずよ。川に行くと言っていたわ。多分、遠くには行ってないと思うけど・・・・・・」  小鳥の母もしぶしぶ、娘が向かっただろう方向を指差し行き先を告げる。 「分かりました。十分に気をつけます。じゃあ、また後で」  唯月は再び深くお辞儀し、それを"行ってます"の挨拶代わりに、玄関を飛び出す。家に上がらず、去った親戚の後ろ姿を見送った小鳥の両親は、困惑した表情を互いに合わせると、元いた部屋へと戻って行った。
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