祠村

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 そこは平らな道が続く森林、草の絨毯(じゅうたん)が一面に広がる。その端に行くと、生い茂る緑の木々に挟まれた浅い川があり、水が緩やかに流れていた。川沿いの岩には多彩な草花が生え美しい花びらを咲かす。夏の暑さは感じず、森を照らす太陽の日差しが心地いい。光を反射する小川の水は、綺麗に透き通り小さな魚が泳いでいる。木に止まっているだろう心を和ませる鳥達のさえずり、危険な獣が姿を現す気配はない。 「気持ちいい場所だな。都会みたいにうるさくないし、空気が新鮮で気分が落ち着く。また来れる機会があったら、ここでキャンプをするのもいいかも知れない」  優しい自然の心地よさに魅了され唯月は、本来の目的を忘れ、靴を脱ぎ捨て川へと足を浸す。氷のような冷たい感触が足と膝に伝わる快感を楽しむ。合わせた手の平を窪ませ、器を作ると、川の水をすくい頭上へ投げては、それが楽しくて夢中で何度も繰り返した。 「・・・・・・そこで何やってるんだ?」 「!」  その時、いきなり後ろから発せられた誰かの尖った声。不意を突かれ唯月の全身はビクッと痙攣(けいれん)みたいに震える。 「お前は誰だ?格好からして、この村の人間じゃないみたいだけど、どこから来た?よそ者がこんな所で何をしている?」  唯月が勇気を出して振り返ると、1人の少女が同じく川に足を浸し、立ち尽くしていた。顔の両脇に結った髪をぶら下げ、背中にも垂れ下がった髪。表情は穏やかだが、目つきはちょっとばかり鋭い。少女は鎌を手にしており、三日月の刀身をぎらつかせる。
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