祠村

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 ここは都会から離れた田舎・・・・・・いや、そこからも遠く離れた山の奥。空を覆う森林が太陽の光を遮り、昼でも暗いトンネルを作り出している。風に揺れる葉の隙間から漏れ出した光が、点々と地面を照らす。  そこのくねくね道の山道を、1台の古い田舎バスがカーブを繰り返しながら通り過ぎる。古臭いガタが来ている音に、尋常じゃない排気ガスを撒き散らし、辿って来た後道を黒く濁らせた。車体は激しい地震のように揺れ、いつ故障してもおかしくないスピードで山中を止まらず駆け上がっていく。  車内では、髪の薄い眼鏡をかけた中年の運転手がハンドルを回す。身なりは汚く、端から見れば、だらしない生活を送っているようなおじさんだ。少し黄ばんだ白いシャツの胸ポケットには、開封済みの煙草がお守りのように収められていた。彼は太い唇を閉ざし、正面から目を逸らさず、黙々と仕事を全うする。 「・・・・・・」  更にその後ろ、右側の後部座席の1つ前に、1人の乗客が席に腰かけている。運転手とは年が大きく離れた背の低い少年が椅子に腰かけ、自然しかない外を窓越しから、退屈そうに眺めていた。ぼさぼさの黒髪に、目がぱっちりとした精悍な顔つき。チェックのハンチング帽を被り、洒落た茶色とクリーム色のコートで身を包んでいる。まるで探偵のコスプレのような、都会に住む雰囲気を放つ格好だった。  やがて少年は黄昏(たそがれ)るのをやめ、席の上で正しい姿勢を取ると、肩に掛けてあった鞄のボタンを外し、手を入れ中身を漁る。取り出したのは1枚の書き切れで、クシャクシャにあちこちが曲がり、へこんでいる。二枚折りに畳んであったそれを広げ、書かれている文字の内容を目線で読んだ。
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