祠村

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「・・・・・・ん?」  でこぼこの悪路を歩き始めてから5分、唯月はある物に目が留まった。道の端に、木で造られた小さな建物が置かれている。(こけ)が生え、石台の上に塔のような屋根を持つ、神社に似た形状。近づいて確認すると、それは何十年も前に建てられただろう、古い『(ほこら)』である事を知る。 「祠がある・・・・・・そういえば、僕が今行こうとしているところの名前も祠村・・・・・・多分、これに由来してるんだね。こういう物はテレビで見るだけで、実物を目の当たりにしたのは初めてかも知れない。記念に写真でも撮ろうかな?」  物珍しさの興味本位を抱き、祠の前で立ち止まると暫し、それをじっくりと観察し始める。祠の扉は開けられ、屋根にはしめ縄、その下には火のない溶けた蝋燭(ろうそく)。カメラ機能に切り替えたスマホを向けた時、 「仏じゃない・・・・・・これは何かの動物・・・・・・?」  唯月は、異様な物を映し出したスマホを、手前から下ろす。祭壇に祀られていたのは、神の像ではなく、見た事もない動物の置物だった。獅子の顔、虎の胴体、熊の手足を持ち、尾は狼を思わせる容姿を模っている。そして、その前に供えられているのは・・・・・・ 「何これ・・・・・・肉・・・・・・?」  蝋燭の間に置かれていた得体の知れない生肉に気づく。肉は数週間放置されたのか、腐敗しハエの幼虫が無数に湧いている。異臭を放つ黒い肉汁が溢れ、祠を濡らし、ぽた・・・・・・ぽた・・・・・・と地面に垂れて、小さな血溜まりを作っていた。 「うぇ・・・・・・気持ち悪い・・・・・・こんな物を供えるなんて、この村の風習ってちょっとやばいんじゃ・・・・・・こんなの家族や友達には見せられないよ・・・・・・」  吐き気に苛まれた口を覆い、取り出したばかりのスマホをしまう。ぞっとした寒い感触に苛まれながら、一歩、また一歩と引き下がる。気分を害した唯月は、祠から目を逸らし、そそくさと逃げるように先を急いだ。
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