祠村

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 山に囲まれたその場所は、複雑に張り巡らされた通路に挟まれ、民家や水田があちこちに点在している。田畑を耕す農夫、外で洗濯物を乾かす老婆、商店の前で世間話をする男女、虫取り網を片手に森に出かける子供達。そんな、平穏を絵に描いたような喉かな風景が、不思議と心を落ち着かせるのだ。  どこを向いても、似たような自然がほとんどの風景の中、ここに住む人々とすれ違う。やはり、山奥の田舎なだけに都会の格好が珍しいのか、村人達はよそから来た唯月に釘付けだった。目を丸くする老人にはしゃぐのをやめ足を止める子供、女子高生らしき2人の少女が、こちらを見てひそひそと何かを話している。 「こんなに見られて、僕ってこの村に来た有名人みたい。歓迎されてないわけじゃないのは分かるけど、ちょっと恥ずかしい・・・・・・それにしても皆、古臭い格好をしてるな。スマホとかタブレットとか使ってる人はいないのかな?」  唯月は、まわりから浴びせられる注目の視線を気にしながら、彼らに友好的な面持ちでお辞儀をすると、そそくさと行きたい場所へと向かう。
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