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小鳥が住んでいる家へは、難なく辿り着く。家は坂の上にあって、小川を手前に持つ低い石垣が印象的で、庭は竹の囲いで囲まれている。2階にまで届いたうねって伸びた松の木は、よく手入れが施され庭園の象徴となっていた。都会に点在する洋式のニュータウンとは違い、和の象徴ともいえる武家の屋敷のようだ。
砂利の上に浮いた石の踏み台に足を乗せ、庭園を潜る。唯月は、ポストの横にあった呼び鈴を鳴らして、扉を開け
「こんにちはー」
普段よりも少し大きな声を出し、挨拶を家に響かせる。すると、すぐ近くから"は~い?"と返事が返り、手前にある襖が開く。出てきたのは、おかっぱの髪型をした小太り体形の中年女性だった。
「あら?もしかして、唯月くん?」
唯月は言われた問いに肯定し、帽子を脱ぎ深く頭を下げた。
「あらぁ、ホントに、あの小さかった唯月くんなのー!?大きくなっわねぇ!すっかり見違えたわ!」
と物柔らかな声で、嬉しそうに歓迎する。照れた親戚から一旦視線を逸らし、彼女は後ろを振り返ると
「あなた!久しぶりに唯月くんが来てくれたの!嬉しいわぁ!」
小鳥の母がそう呼びかけると、今度は彼女の父親が姿を現す。妻とは年齢が大差ない、ガタイのいい男性で、口髭を生やし丸眼鏡をかけている。これもどこか、田舎臭い雰囲気を漂わせていた。
「え、唯月くんか?随分と立派になったな~?昔とは全然違うから見違えたよ」
我が子のようにちやほやされ、照れ臭さを隠せない唯月。彼もまた同じように愛想よく振る舞い
「おじさんもおばさんも、元気そうで何よりです。僕の高校進学を祝うために、招いてくれてありがとうございます」
小鳥の両親はここに唯月を招いた目的を忘れていたらしく、手の平に拳を打ち何度も頷く。愉快な態度で軽い謝罪を述べると、家に上がるよう促すが
「あの、小鳥お姉ちゃんは一緒じゃないんですか?久しぶりに会いたいんですが・・・・・・」
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