0人が本棚に入れています
本棚に追加
そこで自分は立ち上がり、Dの肩に、優しく手を置いた。
「君はまだ、家には帰らないの?」
Dは頷き、続いて、ポツリと、
「・・・お父さんが、来るから」
「そうか、お父さんが迎えに来てくれるのか、それじゃあ大丈夫だな」
「うん」
人気が無く、鬱蒼とした森に囲まれた場所である。Dを一人残して帰るのは不安だったが、それならば安心である。
「じゃあね」
「うん、ばいばい」
「気を付けて帰るんだよ」
そして自分は外に停めた営業車に戻り、運転席のリクライニングを少し倒すと、ルームミラーの角度を調整し、車の後方に真っ直ぐ伸びた、夕焼けに染まったオレンジ色の道を、注視し始めた。
やがて、その道の端に、男のシルエットが浮かび上がった。そのシルエットが次第に近づいてくると、遂にはっきりと、その男の顔を確認するに至った。
“間違いない、来た!”
男の名前は堂前知寿、39歳。
傷害致死事件の、容疑者である。
その堂前が、神社の境内に入って行ったのを見届け、自分は車から素早く、なおかつ静かに降りて行った。
・・・実は、自分の本当の職業、刑事である。
最初のコメントを投稿しよう!