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 土御門家は今こそ名前が違うが、かの安倍晴明を源流に持つ由緒正しい陰陽師の一族であり、代々陰陽寮の重鎮を担っていた。  靖明は現陰陽頭(おんようのかみ)(陰陽寮・長官)土御門晴雄(つちみかどはれたけ)*5の兄である。  この男はかの安倍晴明の生まれ変わりと称されるほどの不世出の天才であったが、大変な研究者肌で人付き合いや出世を好まず、自ら廃嫡*6し表の仕事は全て弟の晴雄に一任していた。  今まで(まつりごと)には全く興味を持っていなかったのだが、この度の大政奉還で靖明は危機感を覚えた。  朝廷に政権が戻ること、即ち外交を積極的に行うということは近々京都に異人を呼び寄せ天皇との拝謁(はいえつ)すら許す事態になるということである。  土御門靖明は異国人、特に白人を毛嫌いしていた。陰陽的に繋がりがある支那(シナ)はさほど嫌っていないどころか一定の敬意すら払っていたが、白人の持つ科学技術や文化は日本の神性を傷付けると理解していたのである。  それは(あなが)ち間違いではなかった。この時点では非常に限定的であるが、西洋文明に触れた人間は皆その便利さに驚嘆し(とりこ)となったのだから。  小御所で開かれる会議の内容を事前に間諜(かんちょう)から得ていた男は、辞官納地(じかんのうち)の勅令により幕府側の不満が頂点に達することを見越していた。靖明はそれを好機と捉え、幕府側の武士達を利用する策を考え出したのだ。  元々佐幕派の者と繋がりのあったことを利用し密かに人員を調達すると、京都の(うしとら)(東北)、(たつみ)(南東)、(こん)(南西)、(いぬい)(北西)にそれぞれ十二、すなわち計四十八の人柱を持って儀式を行うことにした。  その儀式とは“京都を都ごと外界から隔絶する巨大結界を作り上げる”という途方もない計画である。  通常なら、莫迦(ばか)げた夢物語で済む。或いは狂人の戯言(ざれごと)であると。  ――実行したのが土御門靖明でなければ。
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