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幕間-白狐
少し、幼い頃の思い出話をしようと思う。
それはまだ子供の時分であった私には酷く恐ろしく、決して癒えぬ傷を心に残した出来事でありながらも、それから先の方向性を明確に決定づけた――――謂わば人生の指針となる日だった。幼少期の記憶など、齢を重ねるごとに朧気になり霞んでいくものだが、その日の事だけは今でも鮮明に覚えている。
忘れもしない――――あれは私が六歳の誕生日を迎えたばかりの、ある日のことだ。当時私達一家が暮らしていたのは、我が家が代々継いできたという古い屋敷だった。伝統的な日本家屋らしい造りの、有り体に言えば風情がある場所だったと思う。私は幼少期をその場所で、両親と祖母、そして歳が五つ離れた兄の、五人で暮らしていた。
しかしどれだけ立派な造りの屋敷でも、私達一家はそれを少々持て余していたようにも感じた。山奥にひっそりと孤立するように建てられていて、町まで降りるのに車で一時間。辺りに買い出しが出来るような店などあるはずもなく、日用品を揃えるのもやっとだ。お世辞にも快適な暮らしだったとは言えないだろう。
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