1-狐火

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 駅の改札を抜けると、そう広くない駐車場があった。ちらほらと停車している車は見えるが、どうやら僕が待ち合わせている人物はまだ到着していないらしい。 「早く着きすぎたかな?」  そう呟いて、僕は腕時計で時間を確認する。  時刻は午前八時を回ったところ――――約束の時間には、まだ少し早かった。  とはいえ、あと十分もすれば彼女もやってくるだろうし、この場を離れて散歩でもというわけにもいかない。さて、どうしたものだろうか。  などと、そんなことをぼんやり考えていた時。 「おや、兄ちゃん。山登りかい?」  突然声を掛けられ、慌てて振り向く。  すると、温厚そうな雰囲気の男女が駅から出てくるところだった。頭には少しだけ白髪が混じっている。自然な様子で仲睦まじく寄り添っているところを見るに、夫婦だろうか。  にこやかに僕に近づいてくる夫婦に軽く会釈して、僕は口を開いた。 「ええ、そんな感じです」  実際にはまったく違う目的なのだけれど――――……しかし、山登りか。確かに今の僕の格好を見れば、そう言う風にも見えるだろう。厚手のレインウェアに、背中には少し小さめのリュックサック。日除けの為に慣れない帽子まで被ってきた。彼女の話だとかなり深い森の中に入るということだったから、もしも天候が崩れた時に困らないよう、しっかり準備してきたのだ。     
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