1-狐火

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 ふと漏れたその言葉に、自信は無さげだった。少女は目的地の正確な場所を把握していない。だからこれは、そうであってほしいという希望的観測。もう随分な距離を歩いた。これだけ山奥までやってくれば、目的地まではあと少しだろうと信じたかったのだ。辺りもだいぶ暗くなってきて、一人で山を歩くには少々心細い。諦めて引き返そうと何度か考えたが、その度に頭を振って気持ちを引き締めた。家出同然で飛び出してきた少女にとって、この先にある筈の物だけが唯一の拠り所だったから。  少女の額に汗がにじむ。ずるずると足を引きずりながら、足元に散らばる枯れ枝を避けつつ進んだ。 「あっ……」  そして、少女はそれを見つけた。  少女の視界の先に、沢山の木々に囲まれて奥まった場所が僅かに見えた。  その先には大きな岩の壁がある。緑に覆われたその壁の中心に、真っ黒な穴が開いている。あれが探していた洞穴だ。 「あった」  苦悶の表情であった少女の顔に、薄い笑みが浮かぶ。山に登り始めて三時間ほど、当てもなくこの洞穴を探し続けてきたのだ。  洞穴に近づくと、入口を塞ぐように雑草が生い茂り、中の様子ははっきりとはわからない。  少女は少しの間悩んだ後、行く手を塞ぐ草の塊に体を押し込んで洞穴に侵入した。  洞穴の中は当然のように暗闇に包まれていて、前の様子などはまるで見えない。穴の内部は非常に狭く、人一人が身を屈めてやっと通り抜けられるぐらいの広さだった。少女は壁に手を這わせながら、少しずつ奥へと進んでいく。 「――――?」     
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