1-狐火

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 祠の側には、小さな蝋燭(ろうそく)が数本立てられ、辺りを照らしている。途中差し込んできた淡い光の正体はこれだったのか、と少女は思った。 「……でも、いったい誰がこんなものを」  蝋燭が立てられているということは、誰かがこの場所に出入りしているということになる。しかし少女の聞いた話では、この山に人が立ち入ることなど殆どないそうで、ここにある祠も放置されて随分になるということだったのだ。  でも、もし誰かがここに来ていたのなら――――。蝋燭に明かりが灯されている以上、その人物はまだそう遠くには行っていないということになる。いや、そもそもこの洞穴から出ていない可能性もある。まだこの近くに潜んでいて、どこかから様子を伺っているのかもしれない。そしてこれから自分が行う悪事を、全部残らず見られてしまったりしたら。  それが気のせいだとわかっていながら、少女は怖気を感じて身震いした。 「……駄目だ、もう決めたんだ。やるって」  だから怖気づくわけにはいかない。少女は、改めて目の前にある祠に視線を移す。外観はボロボロで、大昔に作られたものなのは間違いない。お供え物なども置かれておらず、酷く寂れた印象を与えられた。    
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