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その時だった。
「――――……へぇ、随分楽しそうじゃないか、狐嶋」
何の前触れもなく、僕たちの会話に割り込んでくる声がした。
声は女性のものだが少し低めで、威圧感のようなものを確かに感じる。
視線を上げると、僕らの行く手に立ちふさがるようにして何者かのシルエットが見えた。
「向井のヤツに聞いてはいたが、まさか本当にそんなガキ侍らせてるとは思わなかったぞ」
煙草を口の端に銜えながら、意地悪く口角を上げて僕たちを見つめる長身の女性。
うっすらと赤く染められた長く艶やかな髪を後ろで束ね、ボロボロの黒いロングコートをだらしなく着崩している。両手は無造作にコートのポケットに突っ込んでおり、美人であるのだが――――立ち振る舞いから柄の悪さが一目で伝わってきた。
瞳は切れ長で麻里子さんにどことなく雰囲気は似ているが、本質は全く違うとわかる。人を食ったような笑みを浮かべてこちらに近づいてくるその姿は、まるで詐欺師のように他人のことを見下し愉悦に浸っているようだった。端的に言うと性格の悪さが滲み出ている。
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