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勿論、山奥の屋敷が不便なだけかと言うとそういうわけでもない。近場を散歩しているだけでそこら中から様々な種類の山菜を採れたし、沢山の木々が生い茂る広々とした森の中は、幼い私にとって格好の遊び場だった。森の中を力いっぱい駆け回って、時折姿を見せるリスや狸などの動物たちや、珍しい昆虫の姿を見つけては心を奪われた。大層な屋敷の娘とは言っても、規則に縛られることなく、比較的自由で気楽な生活を送っていたのだ。
ただし一つだけ……夜の森には決して出てはならぬと、それだけはきつく言いつけられていた。私がどれだけ駄々をこねても、両親は日が落ち始める前に私を家に連れ戻す。それは兄に対しても同様――――というよりも、私達一家全体で定められた、絶対に破ってはならない決まり事だった。
その厳しさは相当なもので、屋敷の扉は十七時には完全に閉め切られ、絶対に開かれることはない。その時刻を過ぎると、屋敷に出入りする人間は皆無だった。たとえ来客があっても、彼らは門限が近づくと半ば追い出されるように屋敷から退出していく。私は、それが不思議で仕方なかった。
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