1-狐火

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 ガタガタと心地よく揺れる電車に身を委ねてうつらうつらとしていると、ようやく目的の駅に辿り着いた。  電車を降りるのは僕一人だった。というより、もしかしたら電車に乗っていたのも僕だけだったかもしれない。少なくとも、僕の乗っていた車両に人影はなかったように思う。まあ祝日に始発を使って、ここまで遠出をしようと思う人間もそういないかもしれない。  走り去っていく電車を見送ってから、僕は大きく伸びをして辺りを見渡す。 「……うん、空気がおいしい」  目の前に広がる光景は、僕が普段見慣れているような、コンクリートの建物に囲まれた狭苦しい空間などではない。  どこまでも開放的で、自然の豊かさを感じられるのだ。周囲に肩身が狭くなるような圧迫感は感じられない。こうしてただ歩いているだけで、遠方の風景を簡単に眺めることができる。背の高いビルが列を成す都会の中では、こうはいかないだろう。  遠くに連なって見える山々が、何故か現実離れして見える。この場所がとても静かで心安らぐように感じるのは、僕が都会の喧騒に慣れ過ぎているからだろうか。     
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