月下の狂騒

2/13
前へ
/13ページ
次へ
 沓名満留(くつなみちる)には、赤ん坊の時から彼女によくしてくれている大伯母がいる。大叔母は孫がいないせいもあってか、満留を何かと気にかけ孫同然に可愛がり、節目などにも必ず記念となる品を贈ってくれていた。  その大伯母が現在、病気の治療の為に入院しているということを失業中の満留が知ったのは、大伯母の妹である祖母の口からだった。 「…お見舞い、行ってみようかな」  話を聞いた後、祖母の家のちゃぶ台でお菓子と共に出された緑茶を啜ってから、満留は呟いた。 「そうしなさいよ。今は暇なんでしょう?」 「暇って…。一応面接受けに行ったりとかはしてんだけど」 「はいはい。明日の昼、姉さんのお見舞いに行くんだけど、満留も一緒に行く?予定が無かったらだけど」  ここで予定があると言えれば多少は格好もつくところだったが、残念のながら予定の無かった孫は身内に見栄を張っても仕方がないと諦め、素直に「うん」と答えた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加