月下の狂騒

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 翌日の昼、病院の大伯母の元に満留が祖母と訪れると、病人であると聞いていた大伯母は満留が想像していたよりずっと元気で、同室の患者と楽しそうに喋っている最中だった。 「姉さん、調子はどう?満留を連れて来たわよ」  祖母に声を掛けられ振り向いた大伯母は満留を見とめると、「ちょっと見ないうちに、キレイになったわねぇ」と歳をとった親戚がお約束で口にすることを言った後、満留にベッド横の椅子を勧めた。 「よく来てくれたわね」 「この子、今暇なのよ。会社辞めちゃって、次の仕事も決まってないから」  満留としては、昔から自分に良くしてくれている大伯母には失業中である事をハッキリとは知られたくなかったのだが、そこのところ祖母は容赦なかった。 「テレビで最近は売り手市場だって言ってたし、満留ちゃんだったらすぐに新しいお勤め先決まるわよ」 「ハハ…売り手市場っていうのは新卒の人たちの事でしょうけど、でも、ガンバリマス」  素直な、しかし実感のない大伯母の励ましに満留が愛想笑いで応えると、それからしばらくは満留の家族の近況についてに話は終始した。 「このコ最近、自分の実家に居づらいらしくて、昨日めったに来ない私の家にまで来たのよ」  同じ病室の他の患者に挨拶を終え大伯母のベッドの側に戻って来た祖母が、またしてもあまり公にして欲しくない満留の現状を報告してきた。 「家に居づらいのなら、私が留守の間、私の家に居ればいいじゃない」 「え…?」 「いいわね。姉さん、自分が留守の間、家に誰もいなくなるの嫌だって言ってたし」  大伯母の唐突な申し出に祖母はすぐに賛成したが、言われた当人の満留は突然過ぎて話を受け入れていいものか、まず戸惑った。 「でも、その、厭じゃないですか?留守中に台所とか、お風呂とか勝手に使われるの」 「よその人だったら色々考えちゃうけど、満留ちゃんだったら構わないわよ。むしろ、助かるわ。誰も暮らしてない家って空気が淀んでしまうから、風を通しておいてくれる人がいた方が」  大伯母から是非にと言われ、祖母からも勧められ、満留が大伯母の留守宅に住むということは、こうしてあっさりと決まってしまった。
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