月下の狂騒

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 大伯父が満留を部屋に入れたがらなかった訳は、多分、当時の満留が幼い子供だったからで、大事なコレクションを壊されることを恐れてだったのだろう。今現在、満留は物の価値がわかる…という程ではないが立派な大人で無闇に他人の物を壊す心配は無いし、大伯父の持ち物も彼が亡くなった今、未亡人からガラクタ扱いされている代物だ。  家主の親戚として、閉め切ったままでは骨董品共々部屋全体にカビが生えてきそうで、気がかりだ。満留は心の中で「言いつけを破ってごめんなさい」と大伯父に謝りながら木製の戸を引いた。  部屋の外から入った光にうっすら照らされた空間は、畳敷きの八畳間…だろうか?大伯母から聞いていた通り、部屋の床は積み上げられた木箱や和綴じの本、行李、磁器のツボ、仏像、巨木を輪切りにしたのを艶々に加工した何か…といった、満留にはそれが何でどんな価値があるのかさっぱりわからない物で埋まっていた。  満留は薄暗い中、足元にある物体を蹴っ飛ばさぬよう、つま先立ちでそろりそろりと窓際まで進んで行き、雨戸をあけた。そのまま外の新鮮な空気を一度吸い、息を吐きながら部屋の中を振り返ると、すっかり明るくなったそこは暗い中で見た以上に物が密集しているように見えた。  見えてる畳の面積は少ないし、数脚置かれた椅子の上には漏れ無く本やら箱やらが乗っていて、確かに、この部屋には人間がゆったり座れる場所はない。満留は大伯父が居間をくつろぎの場としていた理由を、彼が亡くなって十年目にしていよいよ実感した。  満留は廊下に戻るついでに木箱を移動させ、今後も使う予定の窓へと到る通路をより広く確保し、そのまま部屋を出ると、その部屋には夕方になって窓を閉めるまで立ち入らなかった。それは翌日からも同じで、満留は日々の生活で他の部屋には頻繁に出入りしたが、大伯父の骨董部屋には午前中に窓を開け、出かけるか夕方になるかした頃に窓を閉める以外、入ろうという気にはならなかった。
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