月下の狂騒

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 満留は大伯母の家に居候するようになってからも、実家に居た時と同様、求職活動を続けていた。しかし、求人情報は数あれど自分の求める条件を満たす職は限られ、一通り当たって断られたり落とされたりしてしまうと、その後はあまりいい話が見当たらなくなった。  出す宛てのない履歴書などを書いていると、段々と気が滅入ってくる。気分転換となる行為を欲した満留は、大伯母の家を探検するようになっていった。大伯母からは、前もって自分の家だと思って好きに使っていいと言われていた。だからといって大伯母個人の箪笥や文机の引き出しを開けようとは思わなかったが、廊下や居間の本棚に並べられた本や雑誌などは手に取るようになった。  物持ちの良い老人の家には、古い出版物が黄ばんではいても綺麗な状態で残されていて、満留は自分よりずっと年上の本たちを時を忘れて楽しんだ。はじめのうちは若かりし頃の大伯母が買ったであろうファッション誌等の女性向けの本を眺めていたが、そのうち大伯父の所有であったと思われる骨董品に関する豪華な写真集や目録といったものまで読むようになり、そうなるとやはり、元立ち入り禁止部屋にある物たちが気になってきた。  大伯父が目利きだったという話を聞いたことは一度もないが、あの部屋の中には古いものが大量にあるのだから、気の利いた小皿の一つや二つはあるかもしれない。満留はこれまで骨董品に特別興味を持ったことはなかったが、そもそも雑貨の類は好きで「物」には興味はあった。「ちょっと見てみるだけ」。そんな気持ちで、ある昼下がり、満留は初めて窓の開け閉めとは別の目的で骨董部屋に立ち入った。  満留が骨董部屋の中で最初に漁ったのは、ビニール紐で乱雑にまとめられた状態で行李の中に放り込まれていた十センチ足らずの小皿たちだった。保管の雑さからして、大伯父は生前、これらを捨てるか他の誰かに譲ってもいいと思っていたのかもしれない。そんなものをビニール紐を解きつつ満留は一枚一枚丁寧に見ていった。ガラスケースの中に納めるには大袈裟でも日常使いに彩りを与えてくれそうなのを幾枚か発見した。そうやって気に入ったものだけよけると、次は小鉢、中皿…と、満留はどんどん行李や段ボール箱を開けて見ていった。
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