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ある日、午前中のうちに面接先からの断りのメールが二通も入り、求職活動のやる気が折れた満留は、当初予定していたネットでの職探しを早々に切り上げ、大伯母のお見舞いに行くことにした。
約一週間ぶりに会った大伯母はやはり元気で顔色もよく、この分だと満留の居候生活もすぐに終わりそうだと思ったが、大伯母によると投薬の都合で入院が長くなりそうだとのことだった。
「もう飽きちゃったんじゃないかしら?年寄りの家だし」
大伯母が好きなピンクのバラを花瓶を生けていた満留は「そんなことないですよ。実家に無いようなものもあって新鮮だし」と答えつつ、これは申告すべきタイミングだと覚悟した。
満留は花瓶から手を離すと、改まった風で大伯母の目を見て言った。
「あの、おじいさんの部屋ですけど」
「窓開けに行きにくいでしょ。足の踏み場もなくて」
「それは適当に避けて、なんとか。その、部屋の物…古いお皿とか、たまに見てるんですけど…」
「あらそう?なにか気に入ったもの、あった?」
「はぁ、いくつか」
「じゃあ、よかったら持ってって。あの人目利きとは程遠くてガラクタ買ってばかりだったけど、その中でも満留ちゃんが気に入って使ってくれるものがあれば嬉しいわ」
満琉は「勝手に触ってすみません」という言葉をいつでも言えるよう喉に用意していたが、大伯母の全く気にしていない様子に、発するタイミングを失ってしまった。
その後、満留は大伯母から亡き夫の収集癖に対しての愚痴を延々聞かされ、病院を出る時には病室の患者たち全員から見舞客からのお菓子を山と持たされた。
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