月下の狂騒

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 大伯母から正式に部屋の中の骨董品を扱う許可を得た満留は、その後も度々、大伯父の骨董部屋に入り浸った。  現在のこの家の家主である大伯母からは許されたものの、今は亡き大伯父が好き勝手に部屋を荒らしている自分に対してあの世で腹を立てていやしないかと気にした満留は、罪滅ぼしと言うのではないが、骨董を漁る合間にモップや布巾で部屋を掃除するのが習慣となった。そうして、気になってしまったのが部屋の床の間に鎮座する日本刀であった。刀掛けに置かれ、ひと際空間を占有しているそれには、しっかりと埃が積もっていた。  大伯母は夫の過剰な収集癖を快くは思っていなかったようだが、彼女自身も満留が生まれた時のお祝いに立派な柘植櫛を贈ってくれたような人で、本来は昔ながらの物を好む人だ。置物や壺やそれらを収めた箱は定期的に掃除されているようで、埃まみれということはなかった。だが、その刀だけは別だった。先日病室で聞かされた中でも、「なんであんな物騒なもの、買ってきたのか…」と大伯母中での評価がさんざんなそれは、大伯父の死後十年以上、埃の一粒も払われた形跡が無かった。  大伯母は毛嫌いしているようだったが、満留は日本刀に関してそれほど嫌な印象は持っておらず、ヤクザ映画の小道具というより、美術品というイメージが強かった。まさか大伯父が幻の名刀を持っていたなんてことは万が一にもないだろうが、だとしても埃を被った状態では気の毒に感じた。  満琉は足元にある行李や木箱を避けつつ、体を伸ばしてハンディモップで刀の鞘を撫でた。鞘の部分の埃はあっけなく取り払われたが、鍔の先にある柄部分にはモップの先が届かず、かといって床の間に近づく為に足元を片付けるのも面倒だった。不安定な姿勢のまま無理矢理埃を払おうとし続けた満留はついにバランスを崩し、床の間に転がり込んだ。
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