月下の狂騒

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 満留は肩と手を壁に打ち付け、膝で刀を倒し、そうして最後に狭い板の間に倒れ込んだ。「痛い」と思う前に、大伯父の大事な物を壊してしまったのではと、そんなことで肝が冷えた。被害状況を確認しようと満留が身を起こそうとしたところで、第二の悲劇は起きた。  天井の蛍光灯が三回点滅した後、光を消したのだ。 「最…悪」  満留は地を這うような低い声で呟いた。以前から蛍光灯が切れかかっていることは把握していた。ただ、取り換えるとなるとその下にあるあれこれを片付け、部屋の中央に足場となる場所を作らなければならず…要するに、面倒臭がって後回しにしていたツケがたった今、回ってきたのだった。満留がこうして床の間に尻餅をついているのも、そもそもが、これまた手間を省いて無理な体勢で掃除をしていたからであり、なにもかもが自分のせいではあったが、それを認識できたからといって、この状況が好転するというものでもなかった。  幸い、夜ではあるがその晩は満月で、カーテンも閉めておらず、月の光が部屋の中まで届いていた。月明りを頼りにまず、満留は足元で横に倒れた二つの木箱の中を確認した。そのうちの一つの中身は、鋳物製らしき文鎮、もう一つの中身は木製のこけしで、暗い中で見る限り大破した様子はなかった。  一旦は安堵したものの、やはり台所にでも持って行って明るい所で確認しておかなければと満留が考えたところで、彼女は刀も一緒に倒してしまっていたことをようやく思い出した。
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