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一章:村の少年
「おーい。」
夕方ごろ、神社に通じる階段の下で腰かけていると、遠くから誰かの呼ぶ声がする。その声はだんだんとこちらに近づいてくる。声のしたほうを向けば、ぼんやりと人影が見える。背格好と今の時間から考えて、俺と同じ年の子供だろうか。
「そこにいるのは誰だー。」
先に向こうから問いかけてきたので、自分の名前を答えてやる。すると相手はこちらに向けていた足の動きを止める。
「あ、仁雷か…。よう。」
上ずったような声で、相手は話を続ける。しかしその動きは依然止まったままだ。だからこっちから近づいてやることにした。
「ど、どうしたんだ。」
「どうしたって、この距離じゃ顔が見えないだろう。」
俺が距離を近づいてきたことに気づいてか、相手の声が震えている。同時に少しずつだが、砂利道を後ずさる音が聞こえる。
「逃げるなって。別に何かしようってわけじゃない。名前を聞くのはいつものことだろ。」
相手は観念したのか、自分の名前を伝えてくる。その名前は予想通り、聞いたことのあるもので、年が一つほど俺より下の子だった。さらに近づくと、相手との距離は手を伸ばせば届くほどになる。
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