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◆
閉じ込められた檻の中、手足を縛られて転がされる。自分の親であるはずのその男は、鉄格子を挟んで俺を見下ろした。
その瞳には何も映されていない。きっと彼にとっては俺は息子でもないのだと。どんなに人を殺して戦争での戦果をあげようと、どんなに化け物に近づこうと。
――きっと俺は、彼の唯一にはなれないのだと。
「ねえユキ、今日は頑張ったね。ほら、ご褒美だ」
その蒼い瞳が優しく細められる。彼の白い骨ばった左手が自分の頭にかざされ、不意に意識が焼き切れるような頭痛が俺を襲った。
「が……ぁ……っ!!」
「もうすぐ君は痛みを感じなくなる。僕と同じ化け物になる。ようやく、僕にも――」
もがき苦しんでいる俺を横目に呟かれたその言葉の後は、聞き取れなかった。
◆
『……シンフェルシア、やりすぎだ』
頭の中でシアがそんなことを言う。
「だって愛するってこういうことでしょう? 僕も養父や母や村人にたくさんされたよ」
首を絞められ、骨を折られ、化け物だと罵られ、焼かれ。苦しんでいる僕を見て笑っていた彼らに、――僕は『愛』を感じた。
それは違う、とシアは僕を否定する。じゃあ今まで僕が受けていたものはなんだったんだろうか。そう問うと、シアは黙り込んでしまった。
『お前が受けていたのは――ただの憎悪だ』
長い沈黙の後、シアの答えはいつかのクロードやファルスから聞いた答えと同じ、それだった。
「なんで」
「なんでみんな同じことを言うのかな」
彼の体から出ると、僕のことを全て見通したようなシアと目があった。
僕が受け続けていたのが憎悪なら。この気持ちが憎悪だと言うのなら。僕はどうしたらいいのだろうか。
ユキがいなくなったのは、その次の日のことだった。
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