狂った針が時の記憶を刻む

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長い階段を下りて校門を出た所で、舞夜は足を止めた。 校門の前に、黒塗りの車が停まっている。 (あの車……) 目を細めた時、車から一人の青年が降りて近付いて来た。 「君が春日舞夜さんだね」 名を呼ばれて相手を見返す。 「春日舞夜さんで間違い無いだろう?」 昨日会ったばかりだ。 こちらも覚えている。 「……はい。貴方は都市庁の秘書官さんですね?」 「譲刃【ゆずりは】司だ。少し君に用があってね」 「私に?どういったご用件でしょうか」 司は射上げる舞夜の視線を、笑みを浮かべて受け止めた。 「私の部下が君を危険な目に遭わせたと耳に挟んだものだから。申し訳なかった。今後そのような事が無いよう、私からも注意しておいた」 「……有り難うございます」 「どの組織にも愚か者はいる。しかし、私は決して君を害するような事はしたくない。君の敵ではない。昨日あんな事があったばかりだから信じ難いとは思うが、どうか信じてほしい」 「…………」 舞夜が何も言わずにいると、司は軽く息を吐いて再び口を開いた。 「そういえば怪我の具合はどうかな?痕が残っていないと良いが」 「何の事でしょうか。私、今朝は怪我なんてしていませんけど」 「……なら良い。女の子だし痕が残るような怪我なんて嫌だろうからね。それでは、また」 司を乗せた車が走り去ると、辺りは急に静かになった。 その場に立ち尽くしたまま、自分の左腕に手を当てる。 捨て去った筈の過去から、強く呼ばれているようで。 知らない筈の痛みが疼く。
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