狂った針が時の記憶を刻む

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朝、舞夜はマンションから出て駅へと向かう道を辿っていた。 列車の事故があったのは、つい昨日の事だ。 朝のニュースでは被害にあった乗客のほとんどが軽傷で済んだという事は報じられていたが、肝心の事は触れられていなかった。 そっと息をついて自分の髪に触れた時、不意に視線を感じた。 辺りを見回しても、こちらを見ている人はいない。 気のせいだろうか。 首を傾げながら駅へと入ると、同じく登校中の生徒で混み合っていた。 ホームへ続く長い階段を下りかけた途端、強く背中を突き飛ばされた。 「……っ!」 「舞夜ちゃん!」 体勢を崩した体を、力強い腕が抱き止める。 「危ないところだったね。間に合って良かったよ」 そう言いながら注意深く立たせてくれたのは、海斗だった。 「あ、有り難うございます」 「無事で良かった」 取り敢えず二人で階段を下り、ホームの隅で話す事にした。 「助けて下さって、有り難うございます」 改めて礼を述べると、軽い笑みが返って来る。 「どういたしまして。それにしても」 海斗は鋭い瞳をして後ろを見やった。 そちらに目を向けても、駅の雑踏しか見えない。
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