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低い声を出してから、いつもの調子に戻って口を開く。
「そろそろ戻るか。仕事も残ってるだろ」
「そうですね」
長い階段を上る途中で振り向くと、駅へと向かう舞夜の後ろ姿が見えた。
「…………」
ゆっくりと視線を戻す。
確かなものは何も無い。
今もただ立ち止まり、幾つもの嘘に背を向けているのだろうか。
灯ったように見える光も、いつか失われるものなのだろうか。
そうなのだとしても。
例え全てを閉ざしたままでも、進み続けなくてはならない。
ポケットの中に入れた手を握り締める。
何としても見付け出す。
罪にまみれたこの手で見付け出し、壊してみせる。
その為に、自分は生きているのだから。
全てを再び正しく廻す為。
幾度失敗しようとも、どれだけ血と罪にまみれようとも。
見付け出す、必ず。
寄せては返す果てしの無い波のように、底の見えない深い海のように。
人の心の深さを知っているから。
この命尽きるまで、前へ進む。
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