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扉の向こうへと、無力な手を伸ばそう。
人が一人通れる程の、細く狭い螺旋階段を上る。
此処へ来るのも、もう随分と久し振りの事だ。
立ち入り禁止になっている場所だからという事もあるが、それだけではない。
やがて階段が終わり、重たい扉を押し開ける。
すると明るい日射しと共に、潮風が髪を揺らした。
そう、この場所だ。
手すりにもたれ、眼下に広がる海を見詰める。
海上都市シードジェスは、箱船のように外界から囲われている。
その中で唯一海を見る事の出来る展望台。
自分が彼女と初めて出会い、そして殺した場所。
あれから、もう四年になるだろうか。
けれど、例えどんなに時が経とうと忘れる事は無い。
忘れられる筈は無い。
ずっと閉ざして忘れた振りをしていただけで。
刻み込まれた傷も、あの涙も、切なく胸に痛みを残して。
捨てた筈の想いが、止めど無く溢れそうになるから。
静寂に蘇る記憶を辿ってみようか。
偽りに隠した自分を、久し振りに晒してみようか。
気休めの手向けに。
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