二章 公爵家の姫君

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   受付の奥の部屋は、基本的にどこのギルドも簡易的な応接室となっている。リューティスとクレーネーが案内されたこの部屋も同様で、上品な調度の並ぶ部屋だった。  そんな部屋のソファーに並んで腰を下ろし、アクスレイド公爵家からの迎えを待つ。どうにも緊張により鼓動が速まったまま落ち着かず、部屋の中をうろうろと歩きまわりたい心境だった。  数十分後、ギルドの出入り口の方の気配が騒がしくなった。この時間、仕事を終えた者たちが酒を飲み始める頃合であるが、争いごとの類の気配ではない。十中八九、迎えが来たのだろう。  しばらくして、受付とつながる扉が外側から叩かれた。返事をすると、受付嬢が顔を覗かせた。 「お迎えがいらっしゃいました」 「わかりました。ありがとうございます」  どうにも緊張するが、少なくとも魔力と気配から馬車の中に彼女がいないことはわかる。しかし、それでも緊張は高まる一方だ。  数万の魔物の大群と対峙しても、魔界に初めて足を踏み入れたときも、これほど緊張はしなかった。ただ、普段通り、淡々と戦っただけだ。  これほどまでに緊張するのは、彼女に関わることくらいだろうと、内心で苦笑する。 「クレーネー、参りますよ」 「うん」  クレーネーと共に部屋を出て、受付の外に出る。いくつもの視線が向けられるが、深くフードを被ったまま目を伏せて歩いた。  ギルドの外に出ると、その出入り口の正面に大きな馬車が止められていた。華美ではないが、品のある白い馬車であった。  白はアクスレイド公爵家を象徴する色だ。アクスレイド家の紋章は片翼の天使であり、その紋章から連想される色なのである。 .
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