二章 公爵家の姫君

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   その馬車の脇には、黒い外套に身を包み、同色のつば付きの帽子をかぶった御者と思しき男が立っていた。リューティスがフードを下ろして歩み寄ると、男は深々と頭を下げた。 「お待たせしましてまことに申し訳ありません、リューティス様。どうぞこちらへ。お弟子様もどうぞお乗りください」  リューティスは会釈をしてから、彼の言葉に従って馬車に乗り込んだ。リューティスに続いて、クレーネーもおずおずと馬車の中に入ってきた。 「平民街南部転移魔方陣を用いまして、このまま平民街北部転移魔方陣まで飛びます。お屋敷まで数十分程度かかりますが、ご容赦ください」 「わかりました。よろしくお願いいたします」 「かしこまりました」  リューティスは座席に座ったまま一礼した。御者の男は深々と一礼すると、馬車の扉を閉めた。  リューティスの現在の立場は複雑だ。平民であるが、AAAランク冒険者であり、公爵令嬢であるユリアスの実質の婚約者だ。Sランク冒険者ともなると、貴族も一目置く存在となるのだが、『リューティス・イヴァンス』のランクはその一つ下である。そして、ユリアスの実質上の婚約者であるが、正式に婚約しているわけではない。  この複雑な立場ゆえに、公爵家の使用人である彼に対して、どの程度丁寧に接するべきなのかわからないのである。もし、リューティスが貴族であったら、人前で使用人に対して頭を下げることはしてはならない。しかし、リューティスがただの平民であったら、使用人である彼を敬わねばならない。 .
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