#1 決められていた結果

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 すぐに五分が経過し、生徒たちは息を呑む。無駄に大きな足音を、その場を制圧するかの如く低く響かせ、壇上へ登る軍人。マイクを手に取ることもなく、後ろで手を組み、勇ましく怒鳴り散らす。何を言っているのかはよくわからないが、罵倒混じりに挨拶しているのはわかった。  近くに生徒が一人しかいないので、他の反応はわからないが、おそらく怯えているのだろう。時折、椅子が軋む音が聞こえる。それに対して隣の金髪は、居眠りカマしてる。きっと、後でこっぴどく叱られるに決まってる。  いつものことすぎて、溜息すら出ない。 目をつけられる前に起こそうと、彼の方に手を乗せた、その時。突然、体育館が静寂に包まれた。耳が痛くなるほどの、静寂。 「……では、今月の小等部から選出された二名を、発表する」 今度は、マイク越しの声だった。彼の肩を揺らしつつ、目だけで前を見据える。一瞬、隣の彼の肩が、軽く跳ねた。そちらを見ると、碧と目が合った。どうやら起きたらしい。  手を外し、再度体ごと前へ向けると、今度は鋭い黒色と目が合った。 「今回は、二名とも第五学年だ」 安堵と焦燥が、背後に満ちた。 「一人目は……神山 鼬(かみやま いたち)」 背後と教員が、ざわついた。 なぜ、あの七人の子孫である彼が、と。 「静粛に」 威圧感のある、軍人の低音に、体育館は静寂を取り戻した。 「二人目は……宴祭(えんまつり) 愛瑠(あいる)」 再度、体育館はざわめき……とは、ならなかった。あんな奴は駆り出されて当然、という空気と、小声の会話が満ちた。  僕が選ばれたのは、きっと、彼だけ生かして生還させる為、なのだろう。友人の亡骸を片手に帰還、とか、嫌でも絵になるだろうから。 「中等部と高等部は、いつも通り伏せさせてもらう。以上だ。解散ッ!」 教員も生徒も、僕たちに視線だけを送り、何事もなかったかのように日常会話をして帰って行った。  体育館には、乱れた折り畳み式の簡易的な椅子と、僕らだけが残っていた。明かりは消され、開始前より強まった雨粒の打ち付ける音が、よく聞こえた。日中のはずなのに、太陽はナリを潜めている。薄暗い空間に、乾いた笑い声が響いた。
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