1人が本棚に入れています
本棚に追加
「なあ、聞いたかアイル。次に行くのは、俺たちだってよ」
いつものような余裕は、彼から感じられなかった。黒いパーカーのフードを被り、前にだらんと俯く様は、完膚無きまでに敗北した者のようで。
「イタチ君……。大人の狙い、気付いてるの? ……まあ、安心してよ。君だけは、絶対に死なせな」
「やっとだ。やっと、お前のことを否定する奴らから離れられるッ!」
僕の言葉を遮ったかと思うと、彼は椅子を後ろに飛ばして立ち上がった。フードを外した金髪の間から除く、その顔は。
雷に照らされて見えた、その顔は。諦めてなんかいなかった。青ざめるどころか、妙に紅葉していて。怯えるどころか、不敵に口角を釣り上げていて。
「なあ、アイル。敵の奴ら、全滅させてやろうぜ。子供だからって見くびったこと、後悔させてやらァ」
胸元で固く握った拳を掌に打ち付け、雷の轟音にも負けないくらいの音を鳴らす、彼は、僕の友人は。
「……それとな、お前は死ぬつもりだったんだろうが」
言葉を区切り、彼は僕に手を差し伸べる。
「誰かの思い通りに動くなんてつまらねェこと、絶対させねェからな」
彼の言葉を聞き届け、差し伸べられたその手を掴み、引き寄せる。彼は体制を崩し、僕が押し倒されたかのように、隣の椅子の上に寝転ぶ。
「……勿論、僕だって誰かさんの思い通りになるつもりとか、毛頭ないから」
笑い返すと、彼は見開いた目を細めた。言葉を発することもなく、僕の肩に顔を載せ。
「お前、時々考えもしないことするよな……」
呆れたように息をつく彼の体温は、いつも通り高くて。僕は、心底安心した。
結局、二人で考えていることは同じだった。相思相愛、以心伝心。あっちの世界は平和で残虐だから、言葉がたくさん。この国は浸透しやすいから、僕だって知っている。
これはきっと、悲劇の前の喜劇。僕は戦場で死ぬ。イタチ君には悪いけど、君には生きていて欲しいんだ。
口にはせずとも、バレているような気があして。それでもいいかも、なんて甘んじている僕も、実際いるわけで。
彼の背中と温かい手を強く握り締めながら、呟く。
「……精々、迷惑かけないように動くから。作戦でも立てる?」
「……んー、そうだな。俺は木陰に隠れて奇襲。アイルは地下に枝埋めておいて、敵が来た時に足に巻きつけて、後ろから殺しにかかればいいと思う」
「なんで、一瞬でそこまで思いつくの」
最初のコメントを投稿しよう!