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僕の問いを他所に、彼は耳元で楽しげに囁く。
「そりゃ、ずっとこうなることを待ってたんだから、当たり前だよなぁ? アイルと背中を預け合うなんて、最高じゃねぇか」
年齢と家柄に不相応な口調と内容に呆れつつも、思う。確かに、イタチ君となら、負ける気はしない。だからこそ、危ないのだ。それで気が緩まない様にしなくては。
「はいはい、わかりましたよー。……大体の属性魔法は使えるから、二人で立ち回ろう」
前半は、巫山戯半分。後半は、本気。
本番は三日後。期間がないからこそ、気を抜かずに行えるような、そうでないような。取り敢えず、彼は殺させない。僕はなるべく生きる。敵は倒す。
「ま、わかった。武器は軍の厳ついおじさんたちが貸してくれるらしいぜ」
「あ、そうなんだ。じゃ、僕は短刀使うよ」
「知らなかったのかよ……。俺は短刀と太刀、あとは反動が少ない銃と爆弾でいいかな」
「……イタチ君、そんなに大量の凶器、どこに置くつもりなの」
訝しげに尋ねると、彼は小さく笑い声を漏らし、答えた。
「そりゃお前、俺の得意魔法忘れて言ってんのか? 俺の得意魔法は空間を創ること。異空間にでも置いておくよ」
「……だから、君、それ苦手だったでしょ? 大きめのは仕舞えないって、言ってたじゃん」
それを織り込んでの、問いのつもりだった。
「まあ、なんとかなるだろ!」
「なにそれ……」
張り詰めた空気が風船からゆったりと抜けるかのような返答に、握りしめていた力がふっと抜ける。
二人で力なく笑い合う。なぜだか、怖がることが普通なはずの戦場が、心底楽しみになったような、なっていないような。
大きな窓から見える空は、雲を残して晴れようとしていた。やけに盛大な通り雨は、黒い雨雲と共に姿を消していた。
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