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手が外され、視界にいつもの風景が写りこんだと思った瞬間ッ――
「十一歳の誕生日おめでとう、アイルっ!」
クラッカーの軽い爆発音が鳴り、顔に僅かな熱風と、色とりどりの紙吹雪が襲いかかっってきたではないか! 喜ぶべきなのか、痛いと怒るべきなのか……。
「あとこれ、プレゼントな! リボンだと、毎日髪結ぶの大変だろ?」
差し出された彼の手には、茶色の髪ゴムがポツンと乗せられていた。母の趣味で肩下まで伸ばされた髪は、毎日横の髪だけを取って後ろの方で結んでいる。確かに紐だと融通が利かないし、これはかなりありがたいし、何より嬉しい。
「ほんとは他にも買いたかったんだけど、俺に買えそうなの、これしか売ってなくてな……。本とか、高くて買えなかったわ」
苦笑交じりに告げられたことに、昨夜の出来事を思い出す。昨夜、大浴場からこの部屋へ戻るとき、先に行ってろと怒鳴られたのだ。すごく驚いた。
「いや、充分だよ。前から困ってたし、助かるよ。ありがと、イタチ君」
そう言って髪ゴムを受け取ると、彼は嬉しそうに頬を緩めた。
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寝巻きからいつもの服装に着替えて、貰ったばかりの髪ゴムで髪を結ぶ。まだ結び慣れないが、いつか手に馴染んでくることだろう。
自然と、頬が緩みそうになる。視界に紫の髪が映り込み、切らなきゃだよねと無理矢理思考を逸らそうとする。
……にしても、こんなに幸せでいいのだろうか。今日、次旅立つ生徒が発表されるというのに。幸福には、常に不幸が影を指している。今日名前を呼ばれるのが僕だったりして、ね。
三面鏡を閉じて振り返ると、イタチ君と目が合った。
「……なーに? 髪ゴム、似合ってなかった?」
訝しげに尋ねると、彼は勢いよく首を左右に数回振り、口を開いた。
「いやいや、そんなんじゃねえって!」
「……じゃあ、なに?」
再度尋ねると、彼は目を逸らしつつ、答えてくれた。
「いや、さ。今って、戦争中で、外部と連絡取らせてもらえないじゃんか? ってことは、アイルのおばさんに会うこと、無いじゃん? なのに、なんで、いつもその、ワンピース着て、白い靴下履いてんのかなって……」
あー、成程……。確かに、僕が今身につけているのは、大嫌いな母から貰った、白い襟に唐紅のレース付きネクタイ、腰あたりで内部のゴムによって絞られている、薄桃色のワンピースだ。
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