第一章「冷凍食品の気持ち」

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第一章「冷凍食品の気持ち」

      ◆  人は誰しも秘密を抱えて生きている生き物だ。秘密を持たない人間は、世間広しと言えどそうそうお目にかかれるものでもないだろう。そうでなくては、やれスクープだと言って芸能人や政治のスキャンダルで飯を食っている人々はおまんまの食い上げである。  僕だってそうだ。  望む望まないにかかわらず、不幸なことにも不慮の事故で秘密を抱える羽目になってしまった。事実だけ聞けば、なんともまあ格好のつかないことこの上ないが。実際のところ、秘密を抱え込むだけで済んだことが、どれだけツイているのかなんて当時の僕にはわかるはずもなかった。  いや、今の僕ですらも。  それがどれだけ幸福であるかなんて、あの時死の間際に笑ってくれた彼女が教えてくれるものだろうと。愚かしくも、今でもそう信じ続けているのだから。  知られてはいけない。  知られたら生きてはいけない。  知られたならば――生かしてはおけない。  それが秘密というもの。誰にも、知られてはいけない。    ◆  大学生という生き物は、一見すると暇そうな生き物に見える。時間を持て余し、サークル活動に勤しみ、恋愛に一喜一憂し、アルバイトに汗を流し、研究に没頭する。     
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