第一章「冷凍食品の気持ち」

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 世界に、そういう振舞いを強制されているようにも思える。   「だったら僕も……逃げられないわけだ」  ポツリと、自分の影に向かって自嘲気味に独白してみた。影がニヤリと、いたずらっぽく笑った気がした。     ◆  僕や十和の通う浦江大学は関東某所の都市に立地する私立大学だ。学力はそこそこで、これまた就職に強いかと言われれば若干言葉を濁らせてしまうようなレベルの大学である。まあ僕自身学力にはさして自信があるわけでもないので、見栄を張るようなものでもないが。これが三年前ならまだ違ったかもしれないが、あの日がすべての分岐点であり、まともだった僕も知らなくて良いこと知ってしまったが故に、人目を忍ぶような生き方をするようになったのだ。今の生活で満足していることと言えば散歩コースに海沿いを歩けることくらいだろうか。  半端に都心の大学などに進むことは、抵抗があった。都会の暮らしに憧れがあったわけでもなかった。  故に生まれ故郷を離れ、現在では一人暮らしの気ままな生活を送っている。大学から北西に位置する安アパートでの一人暮らしだ。遠からず近からずと言った微妙な距離なため、今でも徒歩で行き来している。     
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