第一章「冷凍食品の気持ち」

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 「納得してくれた? こんなこと、貴方くらいにしか相談できないのよ。この事件、学校側は警察からあまり大事にならないように周知を控えるように言われてるらしいわ。ま、有体に言えば言論統制ってところね。まったく戦時下じゃあるまいし」  「でも妙だ。いくらなんでも学生に被害が出るなら、むしろ周知しすぎてもいいくらいだろうに」  十和は肩を竦めてみせる。  「そのあたりも一緒に調べて欲しいのよ」  「………」  僕はちらりと自分の足元にうっすらと浮かぶ影を見つめた。秘密とは、他人に知られていないからこそ秘密ではある。しかし、それは時に秘密を特定の相手にだけ教えることでそれが互いの信用・結束深めるための契機になる。  諸刃の剣だ……。  彼女、十和藍子はその特別な相手の一人だ。僕の抱える秘密を――知っている数少ない人物。  それだけに、今回の異様な事件に関しての捜査協力を願ってきたのだろうけれど。察しの通り、彼女十和は今時分の若者にしては比にならないくらいの行動力だ。友人が巻き込まれているとは言え、自分の身も顧みずに死人が出ているような事件に首を突っ込もうというのは些か蛮勇が過ぎている気もしない。  しかし、僕は首を横に振る。  「ごめん、君の熱意を不意にするようで悪いとは思う。けれど、これは流石に僕の力をもってしても解決に至るのは難しいだろうと思う。それに、君の知る僕の秘密を――世間に触れられるような立ち振る舞いは怖いんだ」     
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