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と、十和に失望されるのを覚悟で言葉を紡ぐ。
大丈夫、痛みには慣れているから――平気だ。
しかし、十和は答えが分かっていたかのように少しはにかんでみせると、トレーを抱え立ち上がった。
「ダメ元だったから別に気にしてないよ。貴方が悪目立ちしたくないのは、あの時ずっとそばにいた私には分かってる。だから気にしなくていいのよ、本当」
それだけ言い残すと十和はスタスタと歩き去っていった。
本当に、彼女には敵わない。僕には、自分を投げうって守るだけのものが、果たしてあるのだろうか……。
◆
その日の午後、僕は日端教授に呼び出されていた。暇人だと自嘲した手前、呼び出されて「忙しいんでまた別の機会に」とはいかなかった。もとよりこの人に、その手の言い訳が通じる由もないが。
厳密にはこの彼女、日端朱未のゼミ生ではない僕だが、どうにも彼女は僕のことを気に入っているようで、ことあるごとに呼び出してはしょうもない話しに突き合わせ、ある時は本気で彼女のフィールドワークにも付き合わされることもしばしばだ。
今日もわざわざ理系の縄張りに赴いたのも、彼女からの使い走りがことの発端である。
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