第一章「冷凍食品の気持ち」

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 まあ、さっき十和と気まずい空気になってしまったことまで日端教授のせいにするわけではないが(気にしないでいいよと言われても、気にしてしまうのが人間である)。  法文学部に所属する人間が、考古学を扱うか日端ゼミにいると最初のうちは訝し気な目で見られていたが、最近ではみんな慣れたのか気にも留めていない。とはいえ、居心地の悪さがなくなったわけではないが。心のどこかで、やはり壁を感じているところだ。  幸いにして今日はゼミの学生はみないなかった。少しホッとする。  教授本人、つまり日端の部屋に向かうと目の前で書類の山が音を立てて崩れてきた――崩れてきた!?  「どわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」  「んー、その声はコウくん?」  のそのそと、書類の山のさらに奥にあるデスクから日端が顔を出した。今の位置からはほとんど見えないが、あんまり慌てた表情でないのは見なくとも分かった。  「見てないで助けてくださいよ!」  「あはははははは!」  「くっ……」  渋々書類の山から這い出ると、どうにか通り道を作り、彼女に工学部の教授から回ってきた書類を彼女に手渡した。なんでも教授の会議で記録された議事録らしい。現地調査の都合で出払っていた日端教授にわざわざ議事録を記録していたらしい。全体の会議とは言え、律儀な教授もいたものである。  「ほーん、わざわざご苦労なことねぇ」     
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