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「それを言っちゃうんですか……」
後から聞いた話だが、件の工学部の教授はどうやら日端教授に気がある人物だったそうだ。学部違いで知られていないのだろうが、日端教授は独身だが実は婚約者がいる。サバサバしていて男っ気のなさそうな女性に見えるが、今にでも結婚しようと思えば結婚できる身の上なのだ。まあ、当の本人は今のところ結婚する気はないようだが。
さておき、要件は済んだわけだが日端教授はついでだからと言って、部屋の片づけまでお願いしてきた。急ぎの用事があるわけでもなく、書類の山が崩れてしまったことには僕も一抹の責任を感じていないわけでもなかったので、床に散らばった書類を一つ一つ集め始める。
片付けを進める中、僕はふと十和のことが気になった。うら若き乙女が、死人も出ているような事件に関わっていることはやはりのっぴきならない状況だ。日端教授はつかみどころのない大人ではあるが、頼りにはできる人物である。
「あの、日端先生。一つ聞きたいことがあるんですけど」
「あら、ついにうちのゼミの学生になって私の右腕になってくれる気になったの?」
「いやいや違いますよ、どんな期待してるんですか」
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