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序章
この世界は勿体ない。こんなにも美しい生命を、醜い人間が醜くしてしまう。いや、どれだけ見るに堪えない姿になったとしても、彼等は美しい。
そう、少年は思っていた。
「…はぁ…はぁ………う…ついた…」
小さな村で育った彼は、ドラゴンを見て育った。人間に虐げられている彼等を。幼い時の彼はそれが普通だと思っていた…しかし、見てしまった。人間のように表情豊かに過ごすドラゴンや、親子で寄り添い幸せそうなドラゴンを。
その時に見た光景は彼を変え、ドラゴンのことを知りたい、彼等を救ってやりたい、子供ながらに少年は決意し、少年はいつか旅に出ようと思った。
そんな少年が成長して、17歳…幼い頃決めたように、彼は本当に旅に出た。
たくさんの街を抜け、ドラゴンが住んでいそうな場所を巡っていた。そして今、空気が薄く意識しなくとも寒いとわかるほど険しい山を登って、ドラゴンの巣穴に到着したところだ。
「なんかここ滑りそ…うぁぁあああ?!」
巣穴の内側は、湿った長い芝生が急斜面になっていて、人間が簡単に滑り落ちるようになっていた。案の定、少年も滑り転げた。
「どわっ?!!…ってぇ頭打った…………?た、まご…?」
巣穴の中のそのまた巣穴…に、少年は落ちてしまったようで顔を上げた時に少年がしゃがんだ時と同じくらいの大きさの卵が目の前に見えた。
そして次々に卵にヒビが入っていった。
「え、えぇぇ?!う、嘘だろ?!ああああやばいやばい!1つの命を俺は!」
少年は即座に孵化する、ではなく割ってしまった、と勘違いをした。無理もない。自分の頭を強打したのは他でもなく目の前で孵化している卵なのだから。
「……ん?てか…親は?…そう言えばドラゴンって刷り込み………」
パキ…パキ…と少年に考える時間を与える暇なく、卵は次々に殻を落としていき、孵化してしまった。
しかし、驚いたことが起きた。
「………?ぱー?」
「……………え?」
少年は驚きのあまり、叫べなかった。
卵から孵化したのはドラゴンではなく、人間の女の子だったのだから…
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