【午後三時十五分】

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【午後三時十五分】

 M銀行。 「クソ! クソ! クソったれがっ! 余計な事をしねえで、黙って金を渡せば良かったのによお! 馬鹿か、このクソ銀行員どもがっ! たかだか他人から預かった金だぞ。たった一兆億万円を要求しただけだぞ。アホ、アホ、アホ、このアホめらが! ポリなんぞに報せやがって。俺だって受付のテーブルの下に、警察への呼び出しボタンみてえのがあるのは知ってんだよ、この金の亡者のタコどもがっ!」  銀行強盗の犯人は目を血走りさせながら、早縄で後ろ詰めされ手足の自由を奪われ膝まずく、従業員や客の数人の人質を前にして吠えていた。捕らえられた人々は各々、嗚咽を漏らす者もいれば、疲れ切った表情をして顔をずっと俯かせ、小さな声で助けを懇願する者もいたりしたが、総じて黙(だんま)りを決め込んでいた。 その状況とは対照的に犯人の方は焦燥も顕に苛立ち、人質連中の周りを散弾銃を片手にウロウロしながら、クソ! という言葉を連呼しては、時折、手元に置いてある開いたボストン・バッグに手を突っ込んでは弾丸を確認して、常に銃の中の弾倉は満タンにしていた。 肩までかかったボサボサの長髪と清潔感のない無精髭を生やした犯人は、顔一面に脂汗と冷や汗をかきながら、ライトも消されシャッターも締め切った、薄暗い店内をしばらく歩き回ると、突然店内のカウンターのデスクに飛び乗って座り、 「クソ! クソ! あ、いや、大丈夫だ、大丈夫だ、落ち着け、俺。予定通りだ、何もかも予定通りだ。何も心配する事はない。ハァ、ハァ」  額を腕で拭った後に、親指の爪を噛みながら、自分を慰撫するように、青息吐息、落ち着きを取り戻すよう言い聞かせていた。
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