【午後三時半】

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【午後三時半】

 M銀行。  犯人は受付のデスクに座ったまま、苛立った感じで脂ぎった長髪を掻きむしると、 「クソったれ! 要求か、要求か。そうだ、俺の要求だ、クソったれ! クソが、クソが、クソがっ!」  と怒鳴り声に近い一人言を吐き出すと、散弾銃片手にデスクから飛び降りて、人質の一人の若い女性銀行員を捕縛したまま立たせ、 「おい、お前。今から自動ドアっていうか自動ドアのスイッチは切ってるか。兎に角、無理矢理自動ドアをこじ開けて、今の話をOKするって言って来い。それとついでに拡声器も持って来い。そしたら直ぐに戻って動かねえ自動ドアを少し開けたままにしとけ。これからはこっちの声も聞かせねえと話が進まねえからな。分かってるだろうが勝手な行動や不審な動きを見せたら、背後からてめえを撃ち殺した上に、ここにいる人質も容赦なくぶち殺すぞ。それに余計な事も話すな。そしたら殺す。もう既に俺は五人を撃ち殺しているんだ。しかも両親すらも。だから、脅しじゃないのは十分理解してるよな?」  人質の女性銀行員はブルブル震えながら頷き、血眼の犯人は目力も怖いまま銀行員の手の縄だけは解き、彼女の背中を散弾銃で押し、銀行の入口を促した。女性銀行員は僅かに動く縛られたままの足を重たそうに引きずりながら歩いて行った。その姿を犯人は確認すると、再び受付のデスクに飛び乗って座り込み、 「大丈夫、大丈夫。全ては想定内だ。全部、計画通りに進んでいるんだ」  と先ほどと同様に親指の爪を噛みながら、ブツブツと一人言を言い始めた。
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